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2019/08/28

KURAMA-IIで放射線測定

KURAMA-IIで放射線測定アイキャッチ

KURAMA-II

少し前にKURAMA-II(のプロトタイプ版)がオフィスにやってきました。KURAMA-IIの詳しいことについてはリンク先を参照してただくとして、簡単に書くと、京都大学複合原子力科学研究所で開発された、手軽に放射線測定を行うことができる装置です。Kyoto University RAdiation MApping systemでKURAMAです。
冒頭の写真は、下に書いた減塩習慣を近づけて放射線を測定した時のもので、折角のプロトタイプ版なので普段は綺麗に箱に納められている中身を外に引きずり出してみました。
GPSと携帯回線がついているため、スイッチ一つで位置と時間の情報が付いた放射線測定データがサーバーに送られます。つまり、こいつを車に積んでスイッチを入れて走りまわれば、それで走行サーベイを行うことができるわけです。
またKURAMA-IIは放射線検出器としてCsI(Tl)結晶を用いたシンチレーション検出器浜松ホトニクス社製C12137(同社と京都大学で共同開発した高計数率対応版)を利用しており、エネルギースペクトルを見ることができるようになっています。放射線にはいろいろな種類がありますが、KURAMA-IIで測定するのはγ線です。

S2ファクトリーでは、同研究所からの依頼を受け、データを受け取り処理するサーバープログラムの開発、サーバーの整備、データを地図上に表示するマッピングソフトウェアの開発、そしてロゴの開発などを行っています。それらについてはまた別の機会にでも紹介するとして、今回はそんなKURAMA-IIを借りることができたので、オフィスで放射線を測定してみたという話です。

測定してみたとは言っても、電源ケーブルの先のコネクターをコンセントに挿して待つだけです。「何かやった感」はほとんどありません。KURAMA-IIが起動し、勝手に測定したデータをサーバーに送ってくれます。よくある放射線測定装置だと、液晶表示器がついており測定した線量率などが時々刻々と表示されますが、KURAMA-IIではPCやタブレット、スマホを使ってサーバーにアクセスしてデータを見ます。
とは言え、実際にKURAMA-IIが導入されている走行サーベイ車等では、リアルタイムでデータを見るための端末もあり、測定しながらその場でデータを確認することができるようになっているようです。

測定の様子

まずはオフィス内でおもむろに測ります。GPSの電波を受信する必要があるため、窓際にKURAMA-IIを置き、スイッチを入れてしばらく放置しておくとサーバーにデータが送られてきます。データをちらちらと眺めていると、空間線量率は概ね0.03から0.06μSv/hのようです。

15分ほど測ったあと、放射線検出器本体のすぐ横に大正製薬の減塩習慣を置いてみます(冒頭の写真)。空間線量率が少し上がり0.05〜0.08μSv/hになりました。この商品は塩分を控え目にしたい人向けに、半分をカリウム塩に置き換えることで通常の食塩よりも「塩分」を50%ほどカットしたもので、味の素から出ているやさしおも同様の商品です。自然界にあるカリウムにはその放射性同位体である40Kが含まれていることがわかっており、約10%が電子を捕獲して40Arになり、このアルゴンの同位体が1,460keVのγ線を出すことがわかっているため身近な放射線源として知られています。このγ線の影響で線量が少し上がったのだと考えられます。

さらに15分後、減塩習慣に替えてEPIgas社のマントルを置いてみます。これも手軽な放射線源として知られていますが、最近のものは放射性物質を使わないよう改良されているという話もあります。データを眺めていると、線量率は少し下がり、最初の時とさほど変わらないように見えます。やはり放射性物質は今は使われていないのでしょうか?

マントルで15分ほど測った後、最後に岐阜県中津川産の国産天然ラジウム石使用【ラジウム ゲル】なる少し怪しげなものを15分ほど置いてみました。ラジウムを多く含むと言われている花崗岩を利用した健康グッズです。健康面への影響があるのかないのかは知りません(そっち方面な方々にお任せします)が、ラジウムを多く含むのであれば手軽に手に入る放射線源としては魅力的な商品です。同封されていた紙には、14.49μSv/hという大きな数値が出たと書いてあり期待が持てますが数値が少し大き過ぎるような気もします。
さて、マントルに替えてこのラジウム ゲルなるものを置いてみたところ、データには劇的な変化があり、0.3μSv/h近辺の数値が流れてきました。これはすごい。これまでのほぼ10倍です。14.49には遠く及びませんが、かなりの数字が出ました。

グラフで見てみる

ここまでテキストだけで測定の様子を書いてきましたが、一体何のこっちゃという感じでしょうからグラフを見てみましょう。まずは時間による線量率の変化のグラフです。横軸は測定を開始してからの秒数、縦軸が測定した線量率の値です。
減塩習慣で少し上がり、マントルでほぼ元に戻り、ラジウム ゲルで一気に上がっているのが一目瞭然です。マントルに関しては何もない時よりは少し上がっているような気がしないでもないという程度でしょうか。

伝家の宝刀 エネルギースペクトル

さて、多くの放射線検出装置はここで話が終ります。放射線源を変えたら確かに線量率が変わったね、ちゃんちゃん。
しかし冒頭に書いたように、KURAMA-IIを使えば測定したγ線のエネルギースペクトルを見ることができます。線量率がわかるだけであれば何かしらの影響で線量が上ったあるいは下ったのだろうということは言えますがそれ以上の情報はありません。エネルギースペクトルを見ることで、どういう放射線が測定されたのかがわかります。早速見てみましょう。まずは最初の15分間、線源を何も置いてない状態です。
横軸はADC channelで、測定したγ線のエネルギーに関係する値です。キャリブレーションすることでADC channelとエネルギーの関係がわかります。このKURAMA-IIにおけるADC channelとエネルギーの換算式もあるのですが、グラフを作った後に教えてもらったのでとりあえずADC channelのままです。ちなみに今回お借りしたKURAMA-IIのADC channel([latex]x[/latex])からエネルギー([latex]E[/latex])への換算式は

[latex]E = -22.68 + 2.519x + 0.00006514x^2[/latex]

だそうです。
縦軸はカウント数、つまりあるエネルギーのγ線がいくつあったのかを表す数字です。低いエネルギーのものが非常に多く(縦軸は対数なので見た目以上に多い)エネルギーが高くなるに従って減っていきます。600chよりも少し下のあたりにピークらしきものがあります。これだけ見てもそんなものかというところなので次の減塩習慣の15分間を見てみます。
600chよりも少し下の部分のピークらしきものがよりピークらしくなりました。40Kからのγ線(1,460keV)によるものだと考えられます。実際にピーク付近のADC channelの値580を上のエネルギーへの換算式に当てはめれば1,460となります。この40Kにより線量率も少し上ったのでしょう。
次の15分間(マントル)はどうでしょうか?
ほぼ元に戻ったような感じですが、250chあたりにほんの少し何かあるような感じもします。もしかするとこれがマントルからの放射線かもしれませんが違うかもしれません。もう少しデータを溜めてみたいところです。
最後にラジウム ゲルの15分間です。線量率で10倍のものです。エネルギースペクトルにも違いが見られるでしょうか?
ご覧の通り、今までとは全く違うようなグラフになりました。全体のカウント数もかなり増えており、高い線量になることがわかります。
いくつか綺麗なピークが見えており、226Raの崩壊系列において出てくる様々なγ線が見えているのだろうかと想像しますが、ラジウム ゲルに実際にどういう放射性物質が含まれているのか正確にはわからないため、各ピークが何由来のγ線なのかを完全に決めることはなかなか難しいのです。もう少し掘り下げて各ピークが何者なのか検討したいところですが、それなりに大変そうなので今回は力尽きました。もしかしたら後日追記するかもしれません。

まとめ

KURAMA-IIを貸してもらったので、身近な放射線源を測定してみましたが、エネルギースペクトルを見ることで、単に線量率の数値を見るよりもかなり楽しむことができました。
世の中の放射線検出装置にはGM管など原理的にエネルギースペクトルが見られないもの使ったり、エネルギースペクトルも取れるのに線量率しかデータとして出さないものがあったりと測定したデータの解釈には注意が必要なものが多いのですが、KURAMA-IIでは測定した生のデータをそのまま取り出せるため、様々な方法での解析が可能です。もちろんそのようなことは専門家ではない我々には難しいところではありますが。

S2ファクトリー株式会社

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